2008-09-05

高樹沙耶さん・野口健さんとの出会いで感じた環境活動家の条件 森と人の懸け橋(稲本正)

 「海から」そして「山から」の若き“環境実践者たち”が具体的に行動し始め、環境問題解決に向けた新しいウェーブを続々と起こしている。私はここのところ、立て続けにそのような2人の若者たちと対談を行ったので、このコラムで報告したいと思う。


■多くの人に訴えかけたい・高樹沙耶さん

 9月23日、筑紫哲也さんが学長を、私が副学長を務める、富山県魚津市にある「森のゆめ市民大学」にて女優の高樹沙耶さんと対談した。富山の飛行場に降り立った高樹さんは、極めて普通の綿素材のワンピースを着ており、籐できた軽いカゴバッグのようなものを提げていた。迎えに行った者が一般の人と見間違えるほど、本当に素朴な感じで、とても親近感が持てた。

 高樹さんとの対談ははじめてだったのだが、まるで昔ながらの友人と久しぶりに会って話をしているような気分になった。高樹さんはご存知の方も多いと思うが、TVドラマ・映画・舞台などで活躍している売れっ子の女優さんである。そんな彼女が、ある日イルカに出会い、イルカのことが大好きになり、それがきっかけでマリンスポーツに熱中するようになった。とりわけフリーダイビングが得意とのことで、2002年ワールドカップ日本代表選考会で、45mの日本新記録を樹立し、また同年には53mと記録を更新した。

 それから、ニュージーランドやオーストラリアで、マオリ族やアボリジニーの人々との交流を通して、人間にとって持続可能な環境を作り出すことの重要性を知る「パーマカルチャー」の考えなどをもとに、自然のシステムに即して生きていくライフスタイルを提案している。

 また、自然のシステムを上手に農業にも生かしていこうと、さらなるパーマカルチャー生活を目指し、千葉県の白浜の海辺に家を建てた。砂地なので土壌はあまり農業に適しているとは言い難く、四苦八苦しながらも肥料や除草剤は使用せずに、キュウリやナス、枝豆などの野菜作りをしている。

 これらの実体験はテレビ朝日の『素敵な宇宙船地球号』でも紹介された。この影響もあってか、高樹さんはフジテレビの朝の情報番組にてメイン司会者を務めることになった。私は拙著『森と生きる。』において、環境問題はマジョリティーで解決していかなくてはいけないと提案した。高樹さんも環境問題の解決に向け、自然と共生した自分の生き方や、持続可能な環境について新しい価値観の提案を多くの人に投げかけ、マジョリティーの同意を得るために努力していきたい、と力強く話してくれた。


■人材育成も手がけるアルピニストの野口健さん

 また9月30日には、私が設立校長を務めるトヨタ白川郷自然学校にて、アルピニストの野口健さんに講演していただいた。前日の夜、食事をしながら、また白川郷の合掌造り集落を散策しながら、2人でいろいろと話し合った。

 野口さんは、1999年、3度目の挑戦でエベレストの登頂に成功し、7大陸最高峰世界最年少登頂記録を25歳で樹立した。アルピニストとして最初の10年は、登頂することを目標にひたすら世界各国の山に挑み続けたという。

 転機となったのは、海外との共同チームで日本代表として登山隊の一員に参加したときのこと。出発前に隊長が「ベースキャンプのゴミ拾いをしよう」と言い始めた。ゴミを出さないで、かつゴミを拾い、少しでもヒマラヤを美しくしようという強い精神力に衝撃を受けたそうだ。

 一方で野口さんは、欧州の登山家から「日本人はゴミを捨てていく」と批判も受けていた。エベレストには、日本語で書かれたゴミがたくさん落ちていたらしい。野口さんは日本代表としてバッシングにあっているような気分になった。それから「エベレスト清掃登山」を自ら行う決心をした。

 登るときは担いでいくけれど、下山するときは重たいので、いらない物は全部そのまま置いていってしまい、それがゴミとなってしまう。登頂するだけでさえ難しいのに、そのゴミを拾い、清掃しながらの登頂というのは、想像以上に大変なことだ。山頂は凍っているが、山麓では温暖化の影響で雪解けし始めているため、ゴミの悪臭もひどい。

 またエベレスト清掃を行っていくなかで、外国の登山隊の一人に「エベレストは確かに汚いが日本の富士山ほどではない。富士山が世界で一番汚いという評判だ」と言われてしまった。野口さんは冬の富士山にしか登ったことがなかったので雪に埋もれてゴミが見えなかった。そのように言われて夏に登ってみると富士山はこんなにも汚れていたのだと驚愕したそうだ。

 その後「富士山から日本を変えよう」をスローガンに富士山の清掃活動も始めた。最初の1―2年は参加者がほとんど集まらなかったが、近年はたくさん集まり、富士山の頂はずいぶんときれいになった。ただ麓には大型粗大ゴミの不法投棄などがあり、今後も清掃を続けていかなければならないそうだ。

 さらに「野口健環境学校」を設立し、子供たちに環境について考え、学ばせることで、未来を担う人材育成にも力を注いでいる。

 高樹さんも野口さんも、私の息子と同じ世代であるが、かなり実践的でかつ国際的な視野で物事を考えておられた。2人に共通することは、これまでの人と違って、セクショナリズムがないことである。特定の仲間だけにとどまらず、非常に多くの人に協力してもらい、幅広く活動している。今後もこのように気力のあるたくましい青少年が増えていくことを強く願うばかりである。

NIKKEI NETより引用

comment

管理者にだけメッセージを送る